グリーフの知識

後悔と罪悪感


グリーフにおける複数の感情のうち大きな感情が「後悔からくる罪悪感」です。この罪悪感は非常に厄介な感情であり、実はグリーフでなくてもそこかしこに潜んでいる感情です。

特に喪失体験からくる「後悔」は時間を巻き戻す事が出来ない分、非常に厄介です。多くの感情は「罪悪感」に繋がるため「明日への行動」というよりは、「贖罪としての行動」が優先されてしまいます。

罪悪感が発生するのはなぜか

そもそもなぜ「罪悪感」を感じるのでしょうか。それはいったいどこからやってくるのでしょうか。最初に罪悪感を感じるときというのは、「後悔」と繋がっています。

例えばこんな経験はないでしょうか。

「あの人の話をもっとしっかり聞いてあげればよかった」

「あんな言い方しなければよかった」

「あれが最後なら、もっと気持ちを伝えればよかった」

「忙しいとか、自分の方が大変だと思っていてあの人の話をきちんと聞けなかった」

「聞かなかった自分がいけなかった、あの人に悪いことをしてしまった、でももう取り戻せない」

このような感情の流れがあり、「罪の意識」や「悪いことをしてしまった」という気持ちが残ります。

罪悪感は、後悔から生み出された感情だと言え、グリーフでは、サバイバーズギルト(survivor's guilt)という用語もあります。

サバイバーズ・ギルト:生き残った者が持つ罪悪感
https://ja.wikipedia.org/wiki/サバイバーズ・ギルト

 

愛する人を失った時、私たちはこんな気持ちや考えを持つこともあります。

「なぜ私ではなく、あの人が病気になってしまったのか」

「なぜ他の人ではなく、あの人でなくてはならなかったのか」

「何のためにこんな悲劇が起きたのだろうか」

「私が生き残った理由はいったい何なのだろうか」

「本当はあの人が生きて、私が死ねばよかったのではないか」

これらの感情は(実は)いたって普通のことなのですが、当人には余裕がないので気づくことができません。

このように、グリーフにおいての罪悪感は非常に重大な感情であり、過去を取り戻すことができない分、死別後に大きな感情となり私たちの心に留まり続けます。

もし後悔がゼロならこのような罪悪感を持つことはないはずですが、そんなことはあり得ません。人間は誰しも後悔するものですし、それに伴って罪悪感を感じる生き物です。理想論をいくら掲げたところで残念ながら何の救いにもならないのです。

低下する自己肯定感

このように、後悔から始まった罪悪感は、いつしか自分自身を信頼するということもできなくなります。いわゆる「自己肯定感の低下」です。特に死別直後はこの自己肯定感が極端に低くなりがちで、十分に注意しないと自分自身がおかしな方向に行ってしまうこともありますので要注意です。

また、周囲はこのような内面の理解はできない、外からは見えないため、

「もう3年も経ったんだからいつまでもクヨクヨしていないで」

「亡くなった人も早く元気になることを望んでいるよ」

「過ぎたことは仕方ない、前に進むしかない」

「まだ若いんだから、またいい人を見つけたらいい。亡くなった人もそれを望んでいるはず」

「これから先、まだまだいいことあるから大丈夫」

といった安易な言葉をかけてしまうことがあります。

※これらは当事者にとっては、心臓にナイフを突き立てるくらい傷つく言葉です。(語弊を恐れずに言えば)すでに弱り切っている所にとどめを刺すようなものです。決して言わないようにしましょう。

何故これらの言葉が私たちを傷つけるのかはまた別途解説しましょう。

後悔の残る喪失とは

またグリーフでは非常に顕著ですが、大きく後悔を感じる原因のひとつに「自らの意思で選択していない」という事実があります。グリーフに関しては、どうしても後悔が残ってしまう喪失になってしまうからです。

愛する人の死というのは、突然、強制的に押し付けられているものであり、自分の「選択の余地やオプション」がないのです。まさに人の死は、選択することができないからです。

そして遺族にとっては「大切な人が亡くなったので、その後は自分の力で生きてください」と一方的に、そして乱暴に押し付けられているのです。

そのため死別後に「あの時、もっとこうしておけばよかった」「あの時、どうしてあんなことを言ってしまったのだろうか」といった類の後悔が多く残され、それがやがて罪悪感へと繋がっていきます。

後悔が少ない喪失とは

では逆に「後悔が少ない喪失」というのはあるのでしょうか。またそれは(あるとすれば)どういったものなのでしょうか。

これは極端な表現になりますが、「遺族が考える処置なり、態度なり、言動なりを思うようにしてきた」ということです。

つまり、「自分のコントロール下にある状態」ということです。これができていると後悔は少なくなります。

後悔は人の数だけありますが、「もっと愛情を伝えておけばよかった」といった後悔がある人と、「毎日きちんと感謝の気持ちも愛情も伝えていたから、きっと私の想いはあの人に届いていたはずだ」と思えるのとでは、後者の方が圧倒的に後悔は少ないでしょう。

また「私の想うとおりの治療法を試すことができた。だからそれについては後悔はない」といったこともあるでしょう。

しかし(蒸し返してしまうようですが)ここで注意しなくてはならないのは、「亡くなった方が望んでいたことかどうか」をないがしろにしてはいけないという点です。

一般論として「延命と尊厳」の話があります。

本人は延命を望んでいないにも関わらず、家族がどんな状態になっても延命措置を施してほしいと願い、医療機関もそうせざるを得ないようなケースです。「スパゲティ症候群」などという言葉もあります。

これらは安易に出せるような正解、不正解はありません。

しかし、本人の「尊厳」がはっきりしており、もし延命措置を望まないのであれば、家族の意向よりもご本人の尊厳が優先されるべきという論調は強いです。この場合、家族=遺族は「自分たちの思った通りに延命できなかった」という激しい後悔を持つことになります。

※「その命は誰のものなのか」という領域は本サイトで取り扱うべきものではありません。

それでも後悔はゼロにはならない

このように様々な死のケース、そして死に至るケースも様々であるため、だからこそ私たちはできるだけ後悔しないように選択をしなければならないのです。先ほどのケースでいうならば、愛しているなら「愛している」と伝えなくてはならないのです。

時間は有限であり、実は私たちができることは限られているのです。しかし、もし「愛する人が望んだ最後の意見や希望を、私は尊重することができた」という選択をした人は、自分の意見よりも亡くなった方の意見を尊重しているわけですから、やがて後悔が少なくなるでしょう。

後悔はゼロにではできませんが後悔を少なくする努力はできるということです。それが罪悪感を減少させることにもなるからです。

これには、「ナラティブ アプローチ」という手法もあります。

後悔や罪悪感を伝えるには遅すぎるのか

冒頭にも述べましたが、後悔という感情は、私たち遺族にとって非常に強い感情のひとつになります。それは何をしているときもずっと私たちの中に横たわっており、いつでも、急に、感情を不安定にさせます。

「もっとああしておけばよかった」という後悔の念は日に日に強くなるばかりです。もはや謝罪する相手にはこの世にはいないのです。

本当に私たちは、後悔をし、罪悪感を感じるだけで他にできることはないのでしょうか。

今、大切な人を失った状態では、何も変えられないのでしょうか?気持ちを伝えられないのでしょうか?

いえ、そんなことはありません。今からでもできることはあります。実は、私たちは感情を選択することができるのです。

トーマス・アティグの「死別の悲しみに向き合う」という著書にもありますが、私たちは、実はグリーフは能動的であることに気づくとき、私たちは愛する人に向かって「今でも声はしっかりと届くと信じて、愛を伝える」ことができるのです。

それでも、現実世界では何の変化もないかもしれません。

しかし、様々な宗教がそうするように、私たちは「祈り」を捧げることにより、向こうにいる愛する人に気持ちを届けることができます。

そこには、罪悪感があってもいいのではないでしょうか。「ごめんね」と心の中でつぶやくとき、また涙するとき、「大丈夫だよ」と言ってくれるあの人の笑顔が浮かぶのではないでしょうか。

そして同時に「愛しているよ」と愛を伝えることもできるのではないでしょうか。

また、日々の(限られた)行動の中でも、自分のできる範囲で、ひとつひとつの選択をする際に「自分が後悔しないであろう方を選ぶ」ことによってこれから先の後悔を減らすことができます。「あれをやっておけばよかった」「これをしなければよかった」といった感情を今から少しずつ減らす努力をすることができます。

また罪悪感を感じた際にも、同様の行動を選択することはできます。「あのときは A を選んだけれど、今度はちゃんとBを選ぼう」という選択肢があるはずです。

このように、日々を丁寧に過ごすことにより、後悔を減らす努力を続け、そして愛する人への後悔を罪悪感に向き合うことができれば、時間はかかりますが、徐々に自分自身の選択について肯定することにもつながるでしょう。

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dan325

10年ほど前に妻を癌で亡くしました。若年死別経験者。愛する人や大切な人の喪失や死別による悲嘆(グリーフ)について自分の考えを書いています。今まさに深い哀しみの中にいる方にとって少しでも役に立てれば嬉しいです。

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