グリーフ状態は、時間の経過や自身の意識の変化、知識の習得、理解度によって日々変化していきます。
多くの研究でもその段階を分けていますが、ここでは有名な2つの「段階説」と「4つの課題」と呼ばれるモデルについてご紹介します。
エリザベス・キューブラー・ロス:「死の受容のプロセス」
1969年の著書「死ぬ瞬間」に著述されていますが、これはロス自身が200人の末期患者と面接し、まとめられたもので当時非常に話題となりました。以下にあるプロセスは、患者さんの心理状態を表しています。
一方、これは死に逝く患者のみに当てはまるのではなく、残される遺族側にも同様の反応が見られることがあると言われています。
なお、その後の研究によって、現在はこのプロセス通りに進むということではなく、遺族のそれぞれの状況によって、行ったり来たりしますし、全員がこのプロセスを経るということでもありません。また進まなかったとしてもそれほど気にする必要はありません。これは大切な人との環境や関係性によっても大きく変化するものであり、あくまで参考にしておくべきだと付け加えておきます。
Wikipedia より引用
末期患者約200人との面談内容を録音し、死にゆく人々の心理を分析し、文面に顕したものである。地名、人名、その他プライバシーは伏せられているが、おおよそインタビューの内容は要約・編集されず、冗長であってもそのままにナマに記された。インタビューに際して、患者に対しキューブラー=ロスはまず許しを求め、このように切り出す。「わたしたちは特別のお願いでここに来ました。N牧師とわたしは重病で死にかかっている患者について、もっと知りたいと考えているのです」
婉曲な表現は使わず、「死にかかっている」という直截な言葉を使用した。
具体的には、以下の5つの段階があると解説されています。
5つのプロセス | 説明 | |
1 | 否認と孤立 | 死を直視しない状態。「そんなわけがない」「それは私のことではない」というように事実を認めようとしない状態。 |
2 | 怒り | 否認の状態を維持できなくなると「なぜ自分なのか」といった怒り、妬みなどが表出する。周囲に対して怒りや不満をぶつける状態。 |
3 | 取引 | 「助けてくれるなら今度はこうします」という気持ち。神様に祈り願うことも多くなる状態。 |
4 | 抑うつ | 怒りや苦しみ、悩みなどが喪失感に変化する状態。ショックを受けて抑うつ状態になる。他者と切り離されるような感覚も。 |
5 | 受容 | 絶望ではない。またすべてを受け入れて幸福という状態でもない。「安らかに逝きたい」という気持ちがあり安らぎを見出す。死に立ち向かう準備。「一人にしてほしい、そっとしておいてほしい」という気持ちも。 |
アルフォンス・デーケン:「悲嘆の12段階のプロセス」
ロス同様、デーケン氏の12段階のプロセスも有名です。
デーケン氏は「死とどう向き合うか」という著書の中で、
12段階のプロセスがあり、この辛い12の段階を誰かが代わって行うことはできない、自分の中で時間をかけて消化するより仕方がない
と言っています。
まさに哀しみは自分で何とかするしかなく、自分以外の誰かに変わってもらうことのできないプロセスです。
デーケン氏の語る12段階は具体的には以下のように分類されます。
12段階のプロセス | 説明 | |
1 | 精神的打撃と麻痺状態 | 大切な人の死を目の当たりにし、ショックを受けて何もわからなくなってしまう状態。防衛機能が働く状態。 |
2 | 否認 | 「あの人はまだ生きている」「また帰ってくる」と事実を否定する。感情も理性もどちらも事実を否定し受け入れない状態。 |
3 | パニック | 混乱する状態。極度にパニックに陥ることもある。 |
4 | 怒りと不当感 | 「なぜ自分なのか」と不当な扱いを受けたと感じ、自らの運命や神に怒りを感じる状態。 |
5 | 敵意とルサンチマン(うらみ) | 周囲に対して敵意をぶつける。例えば医者や看護師に向けられる時もあれば、亡くなった人自身に恨みをぶつけることもある。 |
6 | 罪意識 | 後悔の念が強くなる状態。「もっとこうしておけばよかった」「自分のせいではないか」といった気持ちが強くなる。 |
7 | 空想形成、幻想 | 事実から離れ、「本当はまだあの人は生きている」と思い込んでそのように生活する。 |
8 | 孤独感と抑鬱 | 独りぼっちを強く感じるようになる。気分が沈み無気力になる。 |
9 | 精神的混乱とアパシー(無関心) | ものごとに対しての無関心が強くなったり、精神的な混乱が続く状態。 |
10 | あきらめー受容 | 「大切な人、愛する人は本当に死んでしまったのだ」という事実を事実として受け入れる状態。 |
11 | 新しい希望ーユーモアと笑いの再発見 | いつの日か希望の光が差す時が来る。笑顔を取り戻す状態。生活のリズムが再び出来上がり、進みだす状態。 |
12 | 立ち直りの段階ー新しいアイデンティティの誕生 | 愛する人を失った事実は変わらないが、大変な困難や苦しみを経て、新しいアイデンティティを獲得し、より人間性が高まり成長する。 |
繰り返しになりますが、遺族はこのプロセスを行きつ戻りつ、ひとつひとつを通過していくことになりますが、必ずしもこれがすべてではありません。「これらのプロセスを通過していないからダメだ」と考える必要はありません。
そういった「型」にはめ込んでしまう行為そのものが罪悪感から発生するものだったり、本来の自分の感情を無視するようなものであれば、どんなに上記のプロセスを通過したところで自分自身を許せず、何の学習もできていないということでしょう。
J・ウィリアム・ウォーデン:「4つの課題」
これまで紹介してきたように段階モデルは非常に有名ですが、一方で「課題」という概念でグリーフを論じているものもあります。特に アメリカの心理学者 J・ウィリアム・ウォーデンの研究では以下の課題があると位置づけています。
4つの課題 | 説明 | |
1 | 喪失を認めること | 亡くなった人はもう二度と戻ってこないし、声を聴いたり触れることもできないというシンプルな事実を真正面から受け止められる。この現実を受け入れる作業が必要。 |
2 | 悲嘆のさまざまな感情を解放すること | 怒りや罪悪感、羞恥心、恐怖や嫉妬、恨みや安堵感など様々な感情が入り込む。 |
3 | 新しい能力を身に着けること | 配偶者が担っていた役割なども引き受けたり、哀しみの中でも新たなネットワークの構築を行う。第三者とうまくやっていくことが求められる。 |
4 | 感情の新しいエネルギーを再投入すること | 「もう一度愛することができる」状態になること。 |
このように段階説、段階モデルとは異なりこれらの4つの課題は順番に進むというものではありません。どちらかというとこれらの課題は相互に作用していると言えます。自分がどの状態なのかを測りやすくなるものです。
グリーフに対しては、自分なりの解釈や理解を進めることでしか、愛する人を失った哀しみを受け止めることはできません。
グリーフプロセスに時間は関係ない
よく勘違いされるのは、「1年、3年、5年と経てば前向きに生きられる」と思う人があまりにも多いことです。
「時間薬」という言葉もあるくらいですから、多くの誤解が生まれてしまうのは仕方がないことですが、実際はそうではありません。この世の中に流れる一般的な時間感覚と比較してグリーフを見てしまうと、そのギャップに苦しむことになりますし、実際にそういう人は多いのではないでしょうか。
つまり、グリーフは時間では解決しないということです。何年経っても哀しいものは哀しいのであり、遺族はそれをどうにかしようと、1日中もがき苦しんでいる状態です。
逆説的ですが、「とても苦しくて、悩んで、もがいたけれど、ようやく落ち着くようになってきた。ふと気づけば 3年かかっていた」というのが正解です。「気づけば3年経っていた」というフレーズの「3年」だけを切り取って「3年経ったから落ち着いた」というのが誤解そのものだと言えます。
周囲は、1年だから哀しい、3年だから大丈夫、5年が過ぎたら前向きに明るくなる、という勝手なイメージを押し付けてはいけませんし、押し付けられそうになったら断固拒否しなければなりません。グリーフには個々のペースがあることを知ってもらう必要があります。
グリーフプロセスとは、これらの包括的な呼称ですが、誰もが順番通りに進むのではなく苦しみもがきながら対処している状態のことです。
愛する人を失った哀しみは筆舌に尽くしがたいほどに強烈な出来事であり、その後の遺族の人生すべてを大きく変えてしまうほどの力を持っています。だからこそ上述のように、自らのグリーフプロセスは自分でどうにか対処するしか術がなく、周りに左右されてはいけないと言えるでしょう。
一般的なグリーフプロセスにはこういうものがあるけれど、自分自身のプロセスは自分でしか作れないのだという意識でいることが大切です。