コラム

グリーフの知識は心を理解するためのツールに過ぎない

喪失というのは、その体験を通じて自分自身の心や体のバランスを崩し、立ち直れないくらい打ちのめされることも含まれています。愛する人を失ったという事実だけでなく自分自身も失ったというのが正解と言えるでしょう。

つまり私たちは、愛する人を失った事実と、自分自身を失ったという事実の二つの事象について理解しなければならないということです。生前、愛する人とのつながりや絆が深ければ深いほどその修復作業には時間だけでなく様々な努力が必要となります。

グリーフの知識だけでは役に立たない

これはグリーフに限らず何でもそうですが、知識は力になります。知らないより知っておいた方がいいことは世の中にごまんとあります。死別や喪失という点でもそれは全く同じです。

死別に至る前には、医療のことや治療のこと、メンタルや心理学といった様々な分野の知識などに触れる機会もあったはずです。(私の場合には病死でしたので、ガンのことや医療業界のこと、様々な治療法などはそれ以前よりも知識が増えました)

それらを経て、喪失体験をし、今度は死別後の世界の知識を身に着けていったわけです。グリーフの知識や生前に得た知識が役に立つのはどういうシーンかと言えば「状態を把握できるようになる」ということです。

  • 今、妻はどんな状態でどんな治療方針があるのか
  • 今、自分はどんな状態で今後どうすればいいのか

といった問いを立てた時に、全く知識のない状態よりも可能性を見つけやすくなったということでしょう。

知らないよりも知っていた方が主体的に選択ができるようになります。グリーフに関しても本サイトにまとめているのでご覧ください。

 

と、ここまで書いてきてアレですが、実は知っているだけではそれ以上の効果はありません。それは何故でしょうか。

心だけでもだめ

その答えを出す前に、知識ではなく、自らの心についても考えてみましょう。大切な人との別れは、私たちの生活、人生、価値観をことごとく破壊します。

大切な人が悪いわけではなく、「大切な人の死」という事象が発生し、そこから私たちが受ける様々な影響が人生を破壊するわけですね。

だからこそ心のままに対処しようとすることは素晴らしいことだし、夫婦として愛を誓い、愛を約束したわけですから心が痛むのは当然のことです。しかし、前述のように心だけで「状態を理解する」ことは難しいため、改善ポイントが見つけにくくなります。(そもそも改善しようという視点も持てないので苦しく辛い日々が続くため、余計な時間やコストがかかります)

つまり「心で感じるままに」だけでは効率が悪いというイメージでしょうか。

知識を入れて自分なりの解釈をあたえる

そこで大切になってくるのは「知識を入れて自分なりのしっくりくる解釈や答えを出す」ということです。

別の言葉で言えば、知識を知恵に活用するということでしょう。知っているだけでだと効果は半減。それを自分のグリーフに当てはめていく作業が重要です。

「死とは何なのか」「時間とは何か」「愛するという事はどういうことなのか」といった知識を理解した上で、「では自分にとっての死は何か」を考えていくことです。

このプロセスが追加されると、哀しみへのアプローチが変わります。哀しみを分解して理解しようとしたり、グリーフワークを積極的に取り入れてみたりと行動につながっていきます。

そうやって自らの心を理解していく、受容していくことによって「大切な人」と「大切な人の死」をそれぞれ解釈できるようになります。

※「ナラティブ」というキーワードがあります。こういった言葉を知っているかどうかだけでも、普段の生活が少し変わるかもしれません。

自分だけのストーリーを語ることは、グリーフにおいて大変重要な位置づけを占めています。ブログや Twitter で発信することも、チラシの裏に気持ちを書き殴ることも、すべてナラティブに行うことができれば、自己理解の深みを増す事ができるでしょう。

グリーフの勉強をすること。ちゃんと泣くこと。

死別体験はユニークなものであり、他者との共通点もありますが、基本的にはそれぞれのストーリーがあります。そのため、流用できる知識は流用し、勉強することは重要です。

しかし、固有の部分ではその知識を利用しつつ、心をほぐすことがポイントになります。ちゃんと泣くことはその代表的な行為でしょう。

グリーフの知識は、それ自体を習得することが目的ではありません。それらはあくまでツールに過ぎません。そのツールを使って何をするかがポイントになってきます。

アタマとココロ、両方を活用してあなただけの哀しみを理解しましょう。

 

今日はそんなことを想いながら過ごしています。

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dan325

10年ほど前に妻を癌で亡くしました。若年死別経験者。愛する人や大切な人の喪失や死別による悲嘆(グリーフ)について自分の考えを書いています。今まさに深い哀しみの中にいる方にとって少しでも役に立てれば嬉しいです。

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